診断士じみへんのアパレル業界独り言

アパレルの経営、会計、税務に関する話

【2023年を占う】2022年ファッション業界3大ニュース

2023年はファッション業界にとってどのような年になるのだろうか?まずは、2022年のファッション三大ニュースを振り返りたい。2022年ファッション業界は、概ねコロナ禍から回復基調にある中、原価高騰、SHEIN等の新たな脅威の躍進、更には、海外や業界の垣根を超えた再編等新たな動きがあった。

【1】円安・原料高と製品原価上昇全方位でコストアップ、どうなる?アパレル値上げ(WWDJAPAN2022年5月)
https://www.wwdjapan.com/articles/1363491

まず、2022年2月のウクライナ危機をきっかけに、原料高となり、その後、好景気アメリカのインフレ懸念から、日米の金利格差が拡大し、7月130円台から11月の150円前後に急激に円安が進行した。2023年の年明けには、再度130円を割る状況となり、円安は一服し、原油相場も落ち着いてきているが、インフレが思った以上にしぶとい可能性もあり、更に、製品納期の6~9か月前に原料発注を行う一般的なアパレルとしては、旧正月前後も現在の状況が、2023年秋冬の原価が下がる可能性は低いと考えられる。ワークマンは価格維持、ユニクロ無印良品等主要大手SPAが値上を表明している。2023年のポイントとしては、①低迷しているアパレル商品の約6割の生産をしている中国経済の状況、②チャイナリスクに備える各社のアセアン等の生産拠点移管の状況、③特にアセアン生産が進んでいる欧米の景気動向に伴う発注量の減少の状況等が挙げられる。特に、景気低迷を踏まえてか、中国工場への、中国ローカルアパレルからの発注や、欧米からのアセアンへの発注も減少している傾向であり、今後原料価格が下がることをを考えると、景気低迷の可能性もある2024年に向け安易に値上がしにくい状況となるだろう。値引抑制で粗利益率が向上してきた各社も大きく棄損する可能性もある。

【2】SHEINの躍進
売上高はユニクロ超え!?謎多き「SHEIN」に迫る!(WWDJAPAN 2022年9月)https://www.wwdjapan.com/articles/1423674

中国広州市場の巨大な生産・卸売市場背景をバックボーンにSNSやPLM等のDXの活用により、消費者にダイレクトに商品を届ける仕組みで、海外市場で成長を遂げてきたSHEINは、2022年10月の大阪、その後の東京と、2022年後半日本マーケットでの存在感が高まってきている状況である。2023年は日本マーケットでは海外Eのため、ダークホースとして予期しなかった大きな脅威になる可能性がある。しかしながら、中長期的には、中国生産背景のみ調達を行う場合、コスト高になる可能性があり、更なる一手が必要になるであろう。今後マーケットとして大きく成長が期待されているインドのZILINGO(本社は同じくシンガポール)等同じようなプラットフォームが出てきているが、今後の競合関係が気になるところである。
〔参考〕ZILINGOのHPhttps://zilingo.com/en/
また、SHEINに対して、日本のアパレルとしては、商品の品質の維持やCSR対応等で対抗していく必要がある。AIによる需要予測はかつては打ち出ししている企業もあったが、決して上手くいっていない。また、自社でテストマーケティングできない分、テナントやプラットフォーム等から得られる他社データ等を活用しつつ、草の根で売れ筋分析を行い、MD力に磨きをかける必要がある。

【3】業界再編とライセンス事業
マッシュHD ベインキャピタルに株式過半を譲渡 提携を機に事業規模拡大(繊研新聞 2022年11月)
https://senken.co.jp/articles/0bf67863-2aa8-4f89-bad1-e57a295506f6

セブン&アイHD そごう・西武売却へ 米ファンド・ヨドバシ連合で再建に着手 焦点は百貨店基盤の継続(繊研新聞 2022年11月)
https://senken.co.jp/articles/d9fee1a8-5591-4a0b-b088-9d8aff2ae555

アダストリア、「アロハテーブル」運営の飲食企業ゼットンを28億円で子会社化(WWDJAPAN 2021年12月)
https://www.wwdjapan.com/articles/1299417

2021年が三井物産インターファッションと日鉄住金繊維事業部の合併や、住友商事のスミテックス 蝶理子会社化、フォワードアパレルの解散、サンマリノ オンワード子会社化等商社、OEMメーカーの再編の年になったが、2022年は、海外販路開拓を図りたいマッシュHDのベインキャピタルとの提携や百貨店業態そのものの見直しに迫られたそごう・西武の売却、等様々な業界再編が加速している印象である。
更には、アダストリア 「フォーエバー21」を来春から国内展開 ライセンス事業を開始 強み発揮し顧客若返りへ(2022年9月)
https://senken.co.jp/articles/320d97c1-88cb-4123-a367-848dbb2d9e4c

ライセンスビジネスにおいて商社でも圧倒的な地位を持ち、米ABGと深いつながりを持つ伊藤忠商事のサブライセンシーとしてアダストリアが、脱ファストファッションを掲げ、日本再上陸を測る等、ブランドビジネスそのものの見直しを図る取組みも見られた。当該ブランドに関しては、否定的な見方もあるが、8割を占める日本企画次第で、ブランドイメージの刷新が図れるか、また、ゴールドウィンのTHE NORTH FACEのように、本国とは別のブランドコアを確立できるかが試されているとみることもできる。ブランド認知力が日本の企画とブランディングにより、マーケティングコストを上回るかどうかが、試されるところである。

参考過去記事:
SHEIN
jimi-hendrix.hatenadiary.jp
原価高騰
jimi-hendrix.hatenadiary.jp

【税制改正大綱】アパレルに関与するフリーランスはインボイス制度に対応するべきか?

12月16日

与党の令和5年度税制改正大綱が12月16日にまとまった。
(施行は、2023年4月~)
www.nikkei.com



 この中では、NISA枠の拡大等に注目が集まっているが、アパレルにとって重要なのが、消費税インボイス制度に関して、大手企業のアパレル商品企画等で関与するフリーランス免税事業者の取扱いであろう。
 インボイス制度は、公平性の原則から、免税事業者の益税解消のためのものであるものの、取引上の不利益(但し、クライアント側でも8割控除等の経過措置があるが)や、消費税納税に関する処理や手続きが新たに発生するため、抵抗の多いものである。特に、企画等で関与する免税事業者であるフリーランスは、仕入税額控除できるものが少ないため、抵抗感が強い。
 しかし、今回の税制改正大綱にて、免税事業者簡易課税制度に近い制度(2割特例)が導入される見通しとなった。課税売上高に対し8割仕入税額控除が出来るということは、簡易課税制度のみなし仕入率でいうと、第2種小売業と同じとなる。(ちなみに、簡易課税制度におけるフリーランスは、第5種でみなし仕入率は50%)つまり、仕入れた商品と同様の額が控除できるということで、時限措置とはいえ、それなりのインセンティブとなろう。
※2年前の課税売上高1,000万円以下等が条件
 特に大手企業と取引のあるフリーランスは、免税事業者もいずれ消費税納税は必要となることが考えられるため、(2023年3月末の登録申請期限の実質的な延長もあるが、)インボイス制度導入の10月には様子見にするにせよ、遅くとも経過措置3年の間には、適格請求書発行事業者として登録申請しておいた方が良いと考えられる。

 その際の制度が固まる前に仮に登録申請する場合の注意点としては、
①本来課税事業者となるために本来必要な消費税課税事業者選択届出書が令和11年9月30日までは提出不要とのことなので、免税事業者に戻ることが想定される場合には、提出しない方が良いであろう。(仮に、提出するにしても令和5年10月1日の属する課税期間、つまり、個人事業主の場合は、令和5年12月31日までに提出しておいた方が良いであろう。)課税事業者2年縛りがあるためである。
②事業用の店舗、社用車等100万円以上の固定資産(調整対象固定資産)の場合は、今回「3年縛り」の対象とならないと考えられているため、気にする必要はないかと思われる。(但し、1,000万円以上の高額特定資産(商品等棚卸資産を含む)を取得した場合は3年縛り。原則課税方式。)
③課税売上高だけが把握できれば、仕入税額控除が計算できるため、仕入に関しての処理(インボイス登録番号等適格請求書の確認等)についても、今の内に準備を進めておいた方が良いと考えられる。経過措置後の処理がスムーズに対応できるためである。
等が挙げられる。
 国としては、消費税導入の際に、抵抗を避けるため、免税点を設けたもののであり、免税制度を表向きに廃止できないが、実質的に免税事業者を無くしたいという考えが背景にあるはずであり、独占禁止法や下請法等を盾にして事業者が抵抗したとしても、課税の公平性という建前があり、その流れが変わることはない。免税事業者も、インボイス制度への対応に迷っている事業者も経過措置の3年が経過する前に準備をしっかりと進めて行く必要がある。

【ビジネスモデル】謎のファッション越境EC SHEINはどこまで成長するのか?

11月18日


SHEIN
https://jp.shein.com/
は、中国ファッション越境EC企業で、売上高2兆8千億円とZARAに次ぐ規模感と言われる。2012年から北米中心に成長し、現在、150か国に展開。日本でもショールルーミング店舗を地方、大阪に設け、11月12日は東京原宿にも常設店舗がオープンした。
尚、中国では展開していない。これは中国では、既に様々な市場等で安価な商品が販売されているからである。
また、AIやSNSを積極的に活用しているテック企業である。しかし、非上場企業のため、なかなかその実態が見えて来ない。
その中で、SHEINの商品展開について分析したい。

SHEINの商品展開で分かっていることは以下である。
①毎週1,000品番を展開。初回、1品番100~200点を生産し、オンデマンドで量産。製品は、残反を使用し、企画から納品まで2~3週間でのQR生産と、余剰在庫を安価に買い付け、ブランドネームを付け替えて販売するバイイングの2ルート。最終消化率は90%以上。QR生産では、中国のPLMアプリがバックボーンになっている模様。このアプリは、工場の生産管理、卸販売の大きく分けて、2つの機能を持ち、某グローバルITカンパニーでINDITEX(ZARA等)の生産システムを開発していたメンバーが立ち上げた会社。ユニコーン企業として、かつてスキャンダル等でも話題になった、インドの中小零細工場のプラットフォームであるZILINGOに似たようなシステムである。昨今このようなテック企業は中国を中心に様々出てきている。
広州製品、生地市場の機能も活用しつつ、数千の縫製工場と取引。但し、広州製品市場には模倣品も多数あり、品質でのばらつきも大きい。

②佛山のSHEINのDC倉庫では、2019年の古い情報ながら、約3000万点、約40~50万SKUを管理しているとのこと(現在はさらに増えていると考えられるが非常に大きな倉庫と思われる。)。その他、香港、デリー、ベルギー、アメリカの東部と西部に通貨物流倉庫有り。日本向けは、YTOエクスプレス等の中国の物流会社経由、国ごとにまとめて発送し、佐川等が顧客までの配送を担当する。発注から約1週間程度での到着となっている。送料の負担も2,000円以上は発生せず、国内アマゾン並み。日本は16,666円以下であれば輸入関税、消費税が発生せず、超えた場合も暫定的にSHEIN負担の模様。

SHEIN、中国広東省の中小アパレル、雑貨卸製造の集積やそれを元に発展してきた広州の市場の背景を生かし、圧倒的な低コストとスピードが売りで成長してきたと言える。日本のアパレルもこれまで、韓国東大門、香港シャムシュイポー、雑貨では、義鳥等の市場の機能を活用し、これまで調達してきたが、BtoBに限られていたものの、SHEINはそれをBtoCに活用した点が斬新と言える。広州の市場はこの10年で、世界で最大の卸市場になったが、賃金の状況等、今後、ベトナム等東アジアに生産拠点の移管が進んだ場合、物流の前提条件が崩れるため、中期的にどこまでこの商品の供給体制が維持できるのかが気になるところである。

【QR生産について】日本のアパレルは海外工場から「無視」されるのか?

11月4日

diamond-rm.net
という記事があった。

日本のアパレルが海外工場から「無視」されているとして、
日本のアパレルに対して、
QRなどもはや通用しない。」
「素材はアパレルリスクであらかじめ海外のアセットとして持て」
「工場の自社化」
等の提案されているが、これに対して、私見を述べてみる。

①海外工場のスタンス
まず、海外工場に無視されているかどうかは、海外アパレル市況にもよる。一般的には欧米はロットも大きく、日本のような多品種小ロットは敬遠されがちなのは事実である。さらに、ZARAも、大ロットは遠方のアジアで、小ロットは近隣の欧州近郊で行っている。しかしながら、欧米の市況の雲行きが怪しくなると、日本マーケットにリスク分散をしようと考える工場経営者は多い。また、より長期的な視点で付き合うのであれば、決して日本のアパレル自体が無視されることはないと考える。但し、日本の人口減少による国内マーケット縮小を考えると、ブランド自体が日本国内マーケットに依存し、成長しない場合は、いずれ「無視」されるかもしれない。

QRは通用しないか
QRの意味合いにもよるが、2000年代前半の109ブランド等のような企画から生産までベンダーに丸投げするQRはもはや成り立たない時代になっていると考えられる。しかしながら、本来の意味でのサプライチェーン全体を考慮したQuick Resposeの考え方は今でも健在であり、ZARAは今でも実践している。よって、QRを常にブラッシュアップしていく必要があると考える。
基本的には、品質を考慮すると、ロットが同程度とした場合、工場での縫製期間は大きく変わらない。ZARAは素材の65%をシーズン前に進行、生産(縫製)はシーズンの25%分のみ進行し、基本的には素材の35%、縫製の75%は期中にQRで進行している。シーズン前、さらには、期中で何を準備し、追加の指示をするか等、MD計画と連携したデカップリングポイント(素材備蓄や縫製準備等)の設定等細かな調整を社内では表出させるが、社外に対して暗黙知化していく必要があるのである。

③素材のアパレルリスク
かつて、日本でのSPAの黎明期で、ワールドが1990年代に実践しいたのもの素材の備蓄である。ゼニアバルファのキャッシュウールを一部、白、黒等のベーシックカラーは染付で、それ以外は生成(キナリ)で備蓄して、国内の各工場にばらまき、追加生産分を2週間で納品していた。ZARAもシーズン前に前述の通り、素材の65%を生産進行しているが、素材自体は、アパレル自体がリスクするもの、素材メーカーがリスクするもの、ランニングしているもの、縫製工場がリスクするもの等使い分けを行っている。
よって、縫製先との関係性を考慮しながら、素材ごとにリスクするのが適切な場所を見極める必要があるのである。
現在は中国素材を、アセアンで縫製するケースが多いが、アセアン自体で生産する素材も活用しつつ、地の利を含め縫製と素材のMDに合わせた最適な組み合わせを検討すべきである。

④工場の自社化
一部アパレル(特に、ワールド、三陽商会等)は歴史的に、1980年代、国内縫製において、売り手市場だった際に、自社化を進めていた。よって、ミセス向け商品のレベルの高い縫製技術を自社に取り込むべく取り組んでいた名残で、自社化を進め、その後、ハニーズは労働資源が豊富で、賃金レベルも世界で低い、最果ての地であるミャンマーで、ある程度のリスクを覚悟で、投資対効果を見込んで自社工場化している。
ただし、全てのアパレルにおいて自社化を進められるかというとそうでもない。ファーストリテイリングも原則的に全て提携工場において生産しているし、自社化するかどうかが重要なのではなく、工場との関係性が重要なのである。工場のユーティライゼーション稼働率)に配慮し、長期的な関係を築ければ、自社工場よりも融通性を確保できるケースが多い。

当然、2010年代頃までの場当たり的なMDや生産体制は、今後世界のマーケットとの生産地獲得競争の中で通用はしないが、日本的な考え方で腰を据えて工場と付き合うのであれば、決して、「無視」されることはないと考える。

【グローバルSPAについて】ファーストリティリングの好調な業績と課題

11月1日

ファーストリテイリングの2022年8月期の決算が発表された。海外売上が半分以上を占める同社においては、為替影響が取り沙汰されることが多いが、それ以外にも、「LifeWear」のポジションが欧米で確立されつつことがアピールされる内容になった。

■2022年8月期(2022年10月13日発表)
https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/earning.html
国内が減収増益、海外が大幅な増収増益。
売上収益の内、国内42%、海外58%と約6割が海外の収益。上期の欠品等が影響しているとのことだが、コロナ禍の影響による不確実性もあり、特に、難しい舵取りであったと推測される。
2021年9月は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の拡大・延長による客数減と、気温が高い日が続いた為に秋物の初動が遅かった。
営業利益は、国内ユニクロが15.3%、海外ユニクロが14.2%、ジーユーが6.8%で合計で12.9%。前期比19.4%増(為替影響を除くと約14%増)。為替影響にもよるが、日本企業の課題とされる営業利益10%以上をしっかりと確保できている。ユニクロ海外の営業利益に関しては、売上収益の約48%を占めるグレーターチャイナの中国のロックダウン等の影響がなければさらに伸長したのではないか。
グレーターチャイナ以外の欧州、米国等も「LifeWear」としての認知度向上とともに、全体が底上げされている点は流石と言える。

ユニクロの強さは、よく言われるように、その「LifeWear」をコアとしたブランディングと定番型の商品構成が大きく影響している。定番型の商品構成の中には、全世界で展開できるものも多く、ユニクロ程の規模感があれば、コアのものに、ローカルMDを差し込むことができ、コアにおいてはスケールメリット等を活かした生産を行うことで、コスト、品質において他社を凌駕することができる。よって、ZARAH&Mのようにローカル対応で多少のローカル企画を確保し、店頭を常に変化させるSPAよりも効率性が高いビジネスモデルである。欧米でも、この「LifeWear」におけるリーダー的なポジションを確立の兆しが見えて来たことで、非常に模倣困難性の高いグローバルSPAアパレルになって来ている。

その中で、ユニクロ在庫回転率低下を指摘する記事や本があった。
会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方 | 大手町のランダムウォーカー, わかる |本 | 通販 | Amazon

これは、これまで、大手商社は生産のプロセスには余り関与せず、在庫保有による金融商売をメインに取引を行い、販売ギリギリまで保有してもらっていたが、商社を商流から排除し、生産調達の完全直貿化を行うという構造改革を行い、仕入を前倒しすることにより、悪化したものと推測される。ベーシック商品を売り逃ししないようなMD設計上ある程度許容できる範囲であったことや、コロナのロックダウンによる生産地や物流の停滞を考慮すると、今期に関してはある程度許容されるかもしれないが、今後正常化していく上で、ZARAのようなファッションの陳腐化が早いブランド程気にするような内容ではないが、どのような在庫ポジションを構えていくのか気になる所である。生機、染色等原料段階でのデカップリングポイント上の工夫や縫製のキャパシティの確保等、更には生産地政策等、労働集約型のアパレル生産は常に課題がつきまとう。

【グローバルSPA】ZARA、H&M、UNIQLOのグローバル展開の違い

10月28日

10月27日の繊研新聞にて、
「グローバル大手小売りの直近四半期決算 インディテックスファストリは2ケタ増収増益」
https://senken.co.jp/posts/global-retail-221027
H&Mだけが苦戦している状況を伝えているが、これはMD上の施策の失敗の他にも、グローバルSPAの展開国の違いが影響しちているのではないか?

H&Mの2022年3Qの決算内容を見ると、原料や輸送費がかさむのと、値下げ販売による売上総利益の悪化の他、ロシア・ウクライナ情勢による影響が響き、営業利益が1.6%(ロシアの影響を除くと5%とのこと)と急激に悪化している。
対して、ZARAINDITEX、2022年上期の決算は、売上が昨年対比+24.6%、営業利益に相当するEBIT※で16.4%と好調である。
Earnings Before Interest and Taxesの略。利払前・税引前利益のこと。
また、ファーストリテイリングは国内が減収増益、海外が大幅な増収増益。売上収益の内、国内42%、海外58%と約6割が海外の売上となり、為替の影響もあり好調を維持している。

H&Mの売上地域別構成比は、2022年3Q(2022年8月)で77市場で展開しているが、ヨーロッパ54%、本国スウェーデン10%、アメリカ23%、アジア14%である。対して、ZARAINDITEXが2022年の半期決算(2022年7月)で、215市場に展開しているが、ヨーロッパ46%、本国スペイン14%、アメリカ20%、アジア20%。また、UNIQLOファーストリテイリングが、24か国に展開し、2021年決算(2021年8月)で、アジアが43%(アジアの内、グレーターチャイナが72%)、本国日本49%、ヨーロッパが6%、アメリカが5%弱である。
ビジネスモデルとしても、QRや空輸等物調達面でアジャイルな展開をしているINDITEXが、大きく展開国数を増やし、リスク分散も出来ているが、H&Mファーストリテイリングは生産、物流面で規模の経済(ファーストリテイリングQR化を進めているが)を働かせるためか、展開国は若干少ない状況。
グローバルSPAと言っても、基本的には、H&MINDITEXは、ヨーロッパ、ファーストリテイリングがアジアと、自国周辺の売上が大きく、逆に、アメリカはどの国も大きく攻め切れていない。

この1年は、景気の良いアメリカ、成長しているアジアが売上を牽引してきているが、H&Mも同じく、米国、そして、特にアジアが伸ばしてるものの、ヨーロッパ(東ヨーロッパが-22%、西ヨーロッパ・本国も-9%)が非常に苦戦していることが窺える。更に、ウクライナ紛争やエネルギー価格等物価高騰の影響を大きく受けECBの利上げの影響等今後も受けやすく、H&Mの業績は暫く低迷が続く可能性が高い。
INDITEXは不確実な時代の中で、全世界に供給できる物流体制を強みとした分散化の展開が出来ており、そういった意味でも、欧州、更には米国が低迷したとしても、H&Mと比べ影響は少ないのではないか?
一方、ファーストリテイリングが、2022年8月の決算発表にて、海外事業、特に欧州での進展についてアピールをしたが、欧州比率は未だ6%となっている。その中で、一番懸念されるのが、やはり、チャイナリスクである。日本に次ぎ、ファーストリテイリングにとって、大きな市場の中国も、ゼロコロナ政策やバブルの崩壊の危機といった爆弾を抱えており、中国一辺倒からの見直しの意味を含めて欧州での成果をアピールした可能性もある。

【SPAについて②】SPAに関わる商品調達におけるプレイヤーで今後生き残るのは?

10月24日

各大手ファッション小売り業が、10月に決算発表を行っている。良品計画が2022年8月期、しまむらが、2023年2月期上期の決算発表を行った。

良品計画は、衣服、生活が低迷し、減益。
2022年8月期(2022年10月13日発表)
https://www.ryohin-keikaku.jp/ir/presentation/
増収減益。増収の内訳は国内が103.7%、海外が120.0%。衣料・雑貨、生活雑貨の販売低迷が影響しているとのこと。衣服は、前年比93.1%、生活は、96.8%であるが、特に第4Q(6~8月)において、衣服が前期比91.0%、生活が85.8%と大きく失速。後半盛り返したファーストリテイリングと対照的である。また、下期においては、海外売上の約8割を東アジアが占めるが、その中でも中国ロックダウンの影響も大きく受けた模様。
営業利益においては、これまでの価格戦略上の失敗の中で、円安や輸送費上昇等の影響等調達コスト増大により、減益が余儀なくされている。
堂前社長の重点課題・取組みにおいて印象的であったのは、
総利益率49%の商品構成(2022年8月期は47.2%)を目指して、商品改革を進める中で、
①安定的で、ユーティライゼーション稼働率)を高めた生産を行うため、工場との直接取引を推進し、2024年8月末までに直貿比率を現在の20~30%から80%までに高めるとの方針を打ち出している。
②100均が高価格帯商品の展開を行う中で、500円~1000円の低価格帯商品の打ち出しを行う。そのために、商品を絞り込む。
➂都心店舗での空間インテリア商品等の拡充やコンビニ等での商品展開等店舗の展開の拡大。
①に関しては、いわゆる三菱商事ファッションや丸紅ファッションリンク系等の商社の中抜きが推進されると推測するが、品質維持等を含めた直貿対応の本部スタッフの増員や海外での生産フォロー体制の構築が課題と考えられる。
②に関しては、実質的な100円均一の崩壊という環境下、大きなチャンスと思われる。
③に関しては、特にコンビニ等自社販路以外の展開とブランディングの関係が気になるところ。

しまむらは、自社開発、共同開発のハイブリッドで売上、利益ともに過去最高。
2023年2月期上期(2022年10月4日発表)
https://www.shimamura.gr.jp/ir/library/result/
増収増益で、上期では過去最高。しまむらは、自社開発ブランド(PB)とサプライヤーとの共同開発ブランド(JB)のハイブリッド、JBにおいて、インフルエンサー企画等を上手く挟み込み、客数や客単価を向上させる一方、PBで利益を確保。
しまむらの取組みの中で気になるポイントは、
①売筋商品を短期間で追加生産する短期生産サイクルの活用により、値下げが抑制できた点。
②売上高に占めるPB比率29.1%、JB比率8.8%、インフルエンサー企画は不明、キャラクター商品が10.1%。
①に関しては、中国のロックダウンを経て、同様の方針で調達を進めていくか否か。デカップリングポイントを設け、素材を予め調達する場合、サプライヤー(名岐アパレル系が中心かと)が構える生地を利用する等もあり得る。元々、売上総利益率が、34%台と一般的なアパレルと比べ低めのため、原価において、ある程度のバッファーを取引先が持っていると推測するが、今後は、更なる円安原価高騰対策に如何に対処していくか。ユニクロ良品計画と比べると、PB以外は、上代の操作がしやすいが、それにも限界が出てくるかと考えられる。
②に関しては、これまでも広告宣伝の仕掛け方等に長けたベンダーがおり、しまむらの得意分野かと思われるが、広告の仕掛けから商品の調達まで含めたワンストップの仕組みがしまむらの商品調達の原価となっている。

良品計画は、工場との直接取引化を80%を目標として積極的に推し進める等、生産においても、ユニクロ化していると言える。良品計画は、ベーシックな商品が中心であり、更には、品番の絞り込みも行い、工場のユーティライゼーション稼働率)等を考慮し、関係性の強化を強化して価値、品質を高める等原価に着目している調達を行っている。
一方、しまむらは、元々海外からの物流において直流化を進めているといった形の取組みはあるものの、国内ベンダーとの取引が多いと考えられる。その際、開発工程において、自社開発ブランドとサプライヤーとの共同開発ブランドの使い分けを行っている。企画内容にバリエーションを持たせ、トップラインを意識した仕入を行っていると言える。各店舗決まった数で種まき的な仕入を行い、売れ筋に関してはQR追加発注により、フォローを行う。自社生産機能を持たないZARA式のMDに近い。
尚、前回取り上げたアダストリアは、ファーストリティリングや良品計画の直接取引と、しまむらのベンダー共同開発のミックスと言える。
商品の調達、仕入にあたり、生産においては、直接取引を押し進める動きがある一方で、上流の企画・開発においては、ベンダーに依存する動きが加速してきていると言える。つまり、貿易業務等商品調達におけるハードルが徐々に下がるにつれ、商品開発において何ら役割を持たない商社やOEMメーカーは淘汰され、工場の中でも、原料等の確保に優れた工場が、ODMメーカーの中でも、企画にマーケティングも加えて提案できる先だけが生き残るのではないか。実際、ODMメーカーの場合、中国やアジアでは、企画機能を持った工場やテーブルメーカー、卸の境界線が無くなってきており、それらの業者が出店するアパレルBtoBのプラットフォームも進化しており、近年注目されているSHEINもそれらを活用していると考えられている。