診断士じみへんのアパレル業界独り言

アパレルの経営、会計、税務に関する話

【SPAについて】垂直統合型かバイイング型か?

10月21日

アダストリアの2023年2月期上期の決算発表が2022年10月7日発表され、
復調の兆しが見える中、WWDの2022年10月18日の記事で
「好調アダストリアに死角はないのか【小島健輔リポート】」というものがあった。
https://www.wwdjapan.com/articles/1447736

この記事によると、バイイングSPAのピーク時(2006年・2007年2月期)とと垂直統合型SPA転換後直近(2022年・2023年2月期)の業績を比べ、
垂直統合型SPAへの転換により、
①商品開発の機動性が損なわれている
②調達ロットとの兼ね合いで、価格が中途半端となっている

と主張されているが、専ら調達方法についてのみ言及され、当時の時代背景の変化や業態の変化については触れられていない。
ポイントのピーク時の後では、絶頂期を迎えた後の2008年9月にH&Mが日本上陸、ストライプインタ―等のポイントの展開するブランドとテイストが似たブランド等競合が激化しており、棚卸資産回転率等2010年以降に低下している。
また、現在は、ネット販売が伸長する中、ライフスタイル提案がデファクトスタンダートになる中、カテゴリーの境界線がなくなり、多種多様な商品が同一のプラットフォームで展開されている。
その中で、調達では、2000年以降、韓国ベンダーによる企画とストック生地を活用した韓国もしくは中国縫製の商品(韓国生地、韓国縫製を「韓韓」生産、韓国生地、中国縫製を「韓中」生産と呼んでいた)が台頭してきており、状況によっては、縫製後のすぐにハンドキャリーで関空に運ばれてたこともある。その後、韓国縫製のコストアップと、中国広州市場生地の台頭により若干調達形態も変化しているものの、韓国、広州等市場の同様企画商品の調達によるバッティングの問題もあり、次第に下火になり始めたのが、リーマンショックの頃である。そこでアダストリアも商品差別化を図るため、2010年チェンジ宣言を出し、現地工場と直接取引による調達に方針を変更をしているが、全て直接取引にしている訳ではなく、商社等取引との使い分けを行っている。
業態については、そもそもポイント時代はアパレル中心であり、商品の回転率も高かったものの、2013年にアダストリアホールディングスとして、トリニティアーツ等生活雑貨を取り扱う会社を連結対象とし(2016年にアダストリア経営統合)、アパレルのみならず、雑貨商品の拡充を図っている。ポイント時代のアパレル中心のビジネスモデルとは粗利率、在庫が大きく異なる点が何ら指摘されていない。
マルチブランド展開で、生活雑貨等様々なカテゴリーを取り扱うアダストリアとしては、ユニクロ良品計画程に、計画生産ができず、現時点で全てを直接取引に置き換えるわけにはいかない。そこで直接取引では、素材でのデカップリングポイントを設け、調達ロットの問題をクリアしつつ、コスト訴求を行いつつ、如何に、豊島、コンプリートフェローズ、スタイレムといった商社等の機動力や企画等を活かした調達に加え、しまむらサプライヤーとの共同開発商品(JB)含めた、最適な調達バランスをどのように取って行くのか、つまり、垂直統合型SPA、バイイング型SPAの両方の特徴を最大限に生かしたハイブリッド生産方式がポイントになると考えられる。

【原価高騰】アパレル輸入コストの削減余地は?

9月13日
10月7日更新
WWD JAPANの2022年9月12日の記事、『「ジーユー」は2022年秋冬物も価格据え置き 品番数の絞り込みや素材集約で利益確保へ』
https://www.wwdjapan.com/articles/1425297
の通り、
アパレル企業は、昨今の原価高騰の影響を多くの受け、値上げに踏み切る中、GUがこの価格据え置き方針を打ち出した。
 
定番商品を多く取りそろえるユニクロもメリハリをつけた価格設定で、一部商品の値上げをする中、ファッション重視のGUが、減収・減益の中、品番数を絞り込んで、価格据え置きの方針を出したことは非常に興味深い。
 
では、どのように価格据え置きを行うのであろうか?百貨店、セレクト系等、ミドルアッパークラス以上であれば、国内回帰という話もあろうが、ミドルロワークラスの商品はそうも行かない。そこで、今回は、アパレルの輸入コストの側面から考察していきたい。尚、為替は為替予約等ヘッジ以外に、一企業がコントロールできないので一旦除外して考える。
 
SC(ショッピングセンター)型専門店向けの商品の場合、上代3,900~5,900円の布帛中軽衣料(ボトム、シャツ等)でFOBが10~15㌦、上代 8,000円~12,000円程度の、重衣料(コート類)でFOB20~30㌦位が一般的だ。各社概ね原価率は大凡30~35%程度と思われる。その中で、ファーストリテイリンググループは、一般的なアパレル企業と比べ、スケールメリットがあるため、FOBが低い上、原価率高く、これにより圧倒的な低価格を実現して来たと考えられる。
FOBは、輸出者からの引渡し価格。具体的には、貿易取引条件の一つで、本船渡し(輸出港で船積みするまでが輸出者の負担)となっているもの。
 
一般的に、海外の製造受託者のFOBの内、平均すると、生地・附属が5割、工賃が3割、その他経費が2割程度。(素材、付属の単価やデザイン等に左右される。秋冬は附属が多くなる。)
 
FOBに加え、商社やOEMメーカーを経由して輸入した場合、アパレルと商社間でのパワーバランスにも寄るが一般的に10~15%程度のマージンが発生する。
 
また、輸入の際に、コンテナ運賃に加え、中国生産は関税約10%が加算される。ASEAN生産の場合は、特恵関税制度等の利用により、国により、関税が減免されるケースが多い。
 
一般的に、生産コストを下げるための主な打ち手としては、GUが打ち出している
①工場、素材の集約による原価低減
に加え、
ASEAN、中国内陸での生産拡大
➂商社等中間マージンの削減
等が挙げられる。
しかしながら、アパレルにおいて他に考慮すべき要素としては、在庫リスクと納期、生産体制のフレキシビリティがある。
それを避ける工夫をするために、各社MD施策により、カップリングポイント※1の調整を行ったり、QR2生産を行っていたが、ここ1年は中国のロックダウンによる納期遅延原価高騰のあおりを受け、QR生産に余りメリットが見いだせない状況だ。
※1 どこで在庫を持つのかの分岐点。染付をしていない生機で在庫する、染付生地で在庫する。もしくは、生地はコンバーターOEM受託先等がリスクを持つ等。
※2 Quick Responseの略で、生産開始を引付たりや売れ行き状況により生産を調整する取組。

仮に、一着当たりFOB10㌦と単純化した場合、アパレル製品の各要素に分解したい。
 
・本体 10㌦(FOB) 原価全体の85%
内訳:
素材  5㌦ 原価全体の43%・・・対応策①
CMT 3㌦ 同上26%・・・対応策①、② 
その他 2㌦ 同上16%・・・対応策①
※Cut,Making and Trimmingの略で、裁断、縫製等の加工賃を指す。
 
・輸入関連経費 平均 1.75㌦ 原価全体の15%
内訳:
商社マージン 2~3㌦  原価全体の17%~26% 
又は、直貿 0.5~1.5㌦ 同上5~13%・・・対応策③  
※商社等に委託せず、アパレル企業が直接貿易を行うこと。
 
製品原価合計としては、10.5㌦~13㌦(平均11.75㌦)となる。
尚、各比率は平均の11.75㌦をベースにした割合である。また、現在の為替が2年前の2020年10月が105円、2022年10月が145円程度であることを考えると円換算で1,234円から1,704円と約4割も上昇している。、為替要因だけで、上代3,900円の商品が4,900円に値上げされてもおかしくない状況である。
 
各々の打ち手につき、具体的に見ていくと、
①素材、工場の集約化 
素材の割合は比較的高く、4~5割を占めているケースが多い。よって、アパレル側がリスクを負うことでリスク軽減ができる。素材の在庫リスクは、他への転用を考慮できれば、製品ほど大きくない。
 
加工賃の割合は実は3割程度と高くない。これは、それだけアパレルが労働集約型であることを象徴している。尚、海外の製造受託者も、純粋な工場から、コンバーター機能(素材の企画から生地生産・加工まで請け負う)を持つ中国の公司日本の繊維商社に相当)迄様々であり、各々との付き合い方を変える必要がある。工場集約により、継続的なオーダーをコミットし、発言力を高めることにより工賃を下げることも行われる。香港の巨大繊維商社であるリー&フォンは、影響力を行使して工賃を下げつつ、工場の経営リスク工場に留意し、生産体制のフレキシビリティを確保するために、工場への発注のシェアを3~7割程度の間でコントロールしていると言われていた。
 
ASEAN、中国内陸での生産拡大
加工賃が下がるが、その他諸経費(生地の持出し費用等で相殺される)。これまでは、ASEAN諸国での生産の場合、日本での輸入関税分程度のメリットしかなかったが、現在は、各国年7~8%労働賃金が上昇しているが、特に中国沿岸部の工賃上昇してきたことにより、ASEANや中国内陸(ディープチャイナ)へのシフトが急速に進んでいる。日本の製造受託大手上場企業マツオカコーポレーションもASEAN諸国の比率を、2022年3月期の50%から、2026年3月期には71%まで高めようとしている。
➂商社等中間マージンの削減
商社等に委託すると10~15%程度コストアップする。しかしながら、海外での品質管理等のコストとトレードオフとなり、それなりのスケールメリットが必要。直貿は、ロット返品等が発生する場合にはリスクを覚悟しなければならないファーストリテイリングは、これまで三菱商事双日ニチメンが中心)等の大手商社からの調達が多かったが、現在は、生産管理の殆どの業務をファストリ自身がコントロールするようにしており、商社に関しては、一部金融機能を活用するのみと聞いている。
 
また、中国からの輸入もRCEP適用により、これまで布帛9.1%~ニット10.9%程度から、徐々に(年間0.7%程度)関税が下がっている。
※東アジア地域の包括的経済連携で、中国、ベトナム等主要アパレル産地が参加しており、繊維製品については、即時又は段階的な関税撤廃が盛り込まれている。
 
尚、百貨店アパレル等中高級品の場合は、日本での検品・プレス作業を行うが、専門店アパレルは原価上の制約から、海外で梱包されたままの状態で店頭に並ぶケースが多い。
・素材:
素材の集約、品質を下げる等▶原価全体の5~10%減可能
・工賃・管理費等:
ASEAN生産で下がるが、素材の持出し経費と相殺されるケースが多い。  
・輸送・関税:

通常貨物船、フェリー便、空輸の順だが、量をまとめて通常貨物船、バイヤースコンソリデーション等利用▶原価全体の1~3%減が可能

関税は、中国だと、CIFの10%弱となるが、ASEANだと0%になるケースが多い(RCEP適用により、中国・韓国生地をベトナムで縫製した場合も含む。)▶ASEAN生産のメリットはここにあり、原価全体の約5%減可能

FOB+運賃、保険料

マージン・管理コスト等:
商社中抜きで低減可能だが、管理コスト増▶原価全体の5~15%減可能
以上、全てにおいて施策を実施すると、合計16~33%削減の余地があるが、2年前からの円安によるコスト上昇はそのすべてを打ち消してしまっているのである。逆を言うと、上代のを維持するには、現在の為替レベルが限界ということである。
 
その中で、一般的なアパレル企業がコスト削減として進めていく道筋としては、全体の調達構造の見直しを行い、①素材、工場等の集約と③の中間マージン削減を進め、生産ロットや納期対応等を考慮しつつ、②ASEANシフトを進めていくのが王道かと思われる。