診断士じみへんのアパレル業界独り言

アパレルの経営、会計、税務に関する話

【QR生産について】日本のアパレルは海外工場から「無視」されるのか?

11月4日

diamond-rm.net
という記事があった。

日本のアパレルが海外工場から「無視」されているとして、
日本のアパレルに対して、
QRなどもはや通用しない。」
「素材はアパレルリスクであらかじめ海外のアセットとして持て」
「工場の自社化」
等の提案されているが、これに対して、私見を述べてみる。

①海外工場のスタンス
まず、海外工場に無視されているかどうかは、海外アパレル市況にもよる。一般的には欧米はロットも大きく、日本のような多品種小ロットは敬遠されがちなのは事実である。さらに、ZARAも、大ロットは遠方のアジアで、小ロットは近隣の欧州近郊で行っている。しかしながら、欧米の市況の雲行きが怪しくなると、日本マーケットにリスク分散をしようと考える工場経営者は多い。また、より長期的な視点で付き合うのであれば、決して日本のアパレル自体が無視されることはないと考える。但し、日本の人口減少による国内マーケット縮小を考えると、ブランド自体が日本国内マーケットに依存し、成長しない場合は、いずれ「無視」されるかもしれない。

QRは通用しないか
QRの意味合いにもよるが、2000年代前半の109ブランド等のような企画から生産までベンダーに丸投げするQRはもはや成り立たない時代になっていると考えられる。しかしながら、本来の意味でのサプライチェーン全体を考慮したQuick Resposeの考え方は今でも健在であり、ZARAは今でも実践している。よって、QRを常にブラッシュアップしていく必要があると考える。
基本的には、品質を考慮すると、ロットが同程度とした場合、工場での縫製期間は大きく変わらない。ZARAは素材の65%をシーズン前に進行、生産(縫製)はシーズンの25%分のみ進行し、基本的には素材の35%、縫製の75%は期中にQRで進行している。シーズン前、さらには、期中で何を準備し、追加の指示をするか等、MD計画と連携したデカップリングポイント(素材備蓄や縫製準備等)の設定等細かな調整を社内では表出させるが、社外に対して暗黙知化していく必要があるのである。

③素材のアパレルリスク
かつて、日本でのSPAの黎明期で、ワールドが1990年代に実践しいたのもの素材の備蓄である。ゼニアバルファのキャッシュウールを一部、白、黒等のベーシックカラーは染付で、それ以外は生成(キナリ)で備蓄して、国内の各工場にばらまき、追加生産分を2週間で納品していた。ZARAもシーズン前に前述の通り、素材の65%を生産進行しているが、素材自体は、アパレル自体がリスクするもの、素材メーカーがリスクするもの、ランニングしているもの、縫製工場がリスクするもの等使い分けを行っている。
よって、縫製先との関係性を考慮しながら、素材ごとにリスクするのが適切な場所を見極める必要があるのである。
現在は中国素材を、アセアンで縫製するケースが多いが、アセアン自体で生産する素材も活用しつつ、地の利を含め縫製と素材のMDに合わせた最適な組み合わせを検討すべきである。

④工場の自社化
一部アパレル(特に、ワールド、三陽商会等)は歴史的に、1980年代、国内縫製において、売り手市場だった際に、自社化を進めていた。よって、ミセス向け商品のレベルの高い縫製技術を自社に取り込むべく取り組んでいた名残で、自社化を進め、その後、ハニーズは労働資源が豊富で、賃金レベルも世界で低い、最果ての地であるミャンマーで、ある程度のリスクを覚悟で、投資対効果を見込んで自社工場化している。
ただし、全てのアパレルにおいて自社化を進められるかというとそうでもない。ファーストリテイリングも原則的に全て提携工場において生産しているし、自社化するかどうかが重要なのではなく、工場との関係性が重要なのである。工場のユーティライゼーション稼働率)に配慮し、長期的な関係を築ければ、自社工場よりも融通性を確保できるケースが多い。

当然、2010年代頃までの場当たり的なMDや生産体制は、今後世界のマーケットとの生産地獲得競争の中で通用はしないが、日本的な考え方で腰を据えて工場と付き合うのであれば、決して、「無視」されることはないと考える。